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東京地方裁判所 昭和41年(ヨ)2264号 決定

申請人 全逓信労働組合品川支部

被申請人 国

訴訟代理人 片山邦宏 外二名

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

本件申請の趣旨は、「『東京都品川郵便局に勤務する郵政省職員は、申請人支部との超過勤務についての協定が成立するまで超過勤務をする義務のないことを確認する。訴訟費用は被申請人の負担とする。』との仮処分命令を求める。」というにあり、その申請の理由は、別紙第一、第二記載のとおりである。

よつて職権を以て調査するのに、申請人は東京都品川郵便局に勤務する郵政省職員(ただし、同局長を除く。以下同じ。)二八七名中一三九名を組合員とする労働組合であつて、しかも、同組合に加入していない職員である千葉淳二等六名から超過勤務協定の締結について右六名を代理すべき権限を与えられているものであること及び本件仮処分申請は、申請人の以上の如き地位に基き、「被申請人と申請人との間に労働基準法三六条により超過勤務義務についての協定が成立するまで東京都品川郵便局に勤務する郵政省職員について超過勤務義務が存在しないことの確認を求める訴」を本案の訴としてなされたものであることは、いずれも申請人の主張自体によつて明白である。しかし、確認の訴は、即時確定の利益がある場合、すなわち、現に原告の有する権利または法律的地位に危険または不安が存在し、これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に許されるものであることはいうまでもない。しかるに、申請人はたかだか労働時間(労働基準法三二条もしくは四〇条、同法施行規則二八条参照)の延長に関しては東京都品川郵便局の労働者の過半数を代表する者として国との間に、右延長のための一要件である書面による協定をなし得べき地位を有するだけであつて、しかも現在国から品川郵便局長に対して同郵便局勤務の郵政省職員に超過勤務をさせるよう指導がなされたに止まり、未だ労働時間の延長が実施されるに至らないというのであるから、法律上申請人の権利または法律的地位に現に危険または不安が生じ、確認判決をもつてこれを除去することが必要且つ適切な場合であるとはいい難く、その他本件において申請人が同郵便局に勤務する郵政省職員の超過勤務義務の存否に関し即時確定の利益を有するものと認むべき資料はない。されば、申請人は右本案の訴につき即時確定の利益を有せず、従つてこれを本案とする本件仮処分申請もまた許されないものというべきである。

よつて、本件申請を不適法として却下することとし、申請費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 川添利起 園部秀信 西村四郎)

(別紙第一)

一、全逓信労働組合は国と労働契約を締結し郵政省の事業場に勤務する労働者を主体として組織された労働組合であつて、その代表者は中央執行委員長宝樹文彦である。

二、東京都品川郵便局(以下品川郵便局という)に勤務する全逓信労働組合(以下全逓労組という)の組合員を以て全逓信労働組合品川支部(以下支部という)が組織されており、徳江彰は支部の代表者である。そして品川郵便局には全逓労組のほかに全郵政労働組合(以下全郵政という)に組織された職員といずれの労組にも加入しない者がある。

三、品川郵便局に勤務する郵政省職員は、全郵便局長をふくめて総人員二八八名であつて、郵便局長をのぞく職員のその労組別内訳はつぎのとおりである。

(1)  全逓労組   一三九名

(2)  全郵政    一二八名

(3)  いずれにも未加入 六名

(4)  いわゆる管理者 一四名

計 二八七名

四、いわゆる管理者とは次の者である。

(A) 課長(庶務会計、郵便、集配、貯金、保険の各課) 五名

(B) 副課長(郵便、集配の各課)           二名

(C) 課長代理(郵便、集配、保険、庶務の各課)    四名

(D) 庶務課主事(会計、庶務、労務の各係)      三名

これらの者は公共企業体等労働関係法(以下公労法という)四条二項で「管理又は監督の地位にある者及び機密の事務を取扱う者」として非組合員とされているものである。

五、ところで品川郵便局において所定の労働時間をこえて超過勤務(休日の勤務もふくめて)をさせるためには労働基準法三六条の協定を必要とし、その協定がないときは同法四一条二号の「監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」をのぞいて超過勤務をさせることはできない。

そして品川郵便局の前記の管理者のうち労働基準法四一条二号にあたるものは課長五名と庶務課課長代理一名の計六名であるからその余のいわゆる管理者も前記協定がないときは超過勤務をすることはできない。その他の一般職員はいうまでもない。

労働基準法三六条は「その事業場の者の過半数」を代表する者との協定を要求しているが、品川郵便局の「過半数」とは全職員二八七名から前記六名を控除した二八一名の過半数すなわち一四一名である。

六、全逓労組品川支部は品川郵便局職員のうち一三九名を組織し、且つ未加入者千葉淳二、前田孝志、稲村力、福島正明、岡田茂(以上いずれも集配課)、石毛弘道(庶務会計課)ら六名から超過勤務協定についての代表権を受任され、合計して一四五名を代表しているので、支部との書面による協定なくしては前項にのべた二八一名に対して超過勤務をさせてはならないことになる。そしてこの協定は結ばれていない。

七、しかるに郵政省は品川郵便局長に対して、支部との協定なくして前記二八一名に超過勤務をさせるように指導しているが、全く違法なものであつて、これを放置すると義務なきことを強制する違法状態が継続するので超過勤務義務不存在確認訴訟を本案訴訟として本件命令を求める次第である。

(別紙第二)

一、(申請人支部の当事者適格)

支部は、申請書第三項にのべたように品川郵便局職員一三九名をその組合員とし、同第六項にのべたように千葉淳二等六名から超過勤務協定の締結について受任している。すなわち、品川郵便局で勤務する労働者一四五名を代表するもので、その支部長徳江彰の名義が労働基準法三六条にいう「その事業場の過半数を代表する者」なのである。

二、労働基準法三六条は、使用者がその法定労働時間(同三二条)を超えて労働させることについては、過半数を組織する労働組合又は超半数を代表する者の処分権能を法認している。上記労働組合又は代表者は、その事業場で働らくすべての労働者(法四一条所定の者をのぞく)の超過勤務労働義務の発生・消滅についての権能を有するのである。

三、この権能を講学上、労働組合がその組織員とすることによつて支配する労働力のコントロールの権能に基礎をおくと考えるか、あるいは労働組合がその組織員とする労働者の地位の向上を目的とする活動の権利(広義の団結権)と考えるかはともあれ、その権能が法律上の利益を有するものであること疑ない。当事者適格のあること、いうまでもない。

四、被申請人は、いま労働基準法三六条の協定がないから「品川郵便局における一四名の管理をのぞくその余の職員」に対し超過勤務を命ずる意思はない、と主張している。しかし、申請書第四・五項にのべたように、右一四名の管理者のうち課長五名と庶務課長代理一名とをのぞく八名は労働基準法三六条の協定なしに超過勤務をすることは違法である。

けだし、右八名の職務の実態は法四一条二号にいずれも該当しないからである。思うに同号は、その勤務時間が厳格でなく不確定なこと、その為すべき労働義務の才量の余地の自から有することいわゆる管理職手当が支給され時間外労働の手当をも含むものであることなどについて該当するのであつて、公労法四条二項と文言は同じであつても、その趣旨は全く別なのである。

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